1980年3月1日は愛知県の公立高校の卒業式だった。どうやら今も変わってないらしい。毎年3月1日はなんかキュンとする。
1980年のその日は朝から雨。あまり盛り上がらない式のあと、片思いを抱えている女友達は最後の思い出撮影に忙しい。
しかたなく何も用事が無い友人とふたりでお好み焼きを食べに行った。友人は4月から京都の大学に進学、私は名古屋市内の短大への進学が決まっていた。
天気は雨でも、明るい未来のことで胸の中はいっぱいだったことだろう。お好み焼き屋のラジオから流れてきたのは、渡辺真知子の「唇よ熱く君を語れ」。いま聞いても、何とも言えない甘くてほろ苦い気持ちになる。
その後の人生にどんなことが待ち構えているか全く知る由もなかった18歳の私。その曲は、希望しかなかったピンクの口紅色の記憶を鮮明に呼び起こすのだ。
つい先日、そのお好み焼き屋の近くを車で通った。お店はもう跡形もないだろうが、どこにあったかわからなくなっていた。
お好み焼きの味は憶えているが、場所がどこだったかの記憶が無い。人間の記憶っていいことしか残らないようになっているのか。
だったらほろ苦いほうの記憶もいらないから消えればいいのに、そうもいかないらしい。
渡辺真知子は今も元気でこの歌を歌っている。当時の記憶とはちょっと違う姿だが、それでも明るく歌っている様子は頼もしい。見ていると元気になるので頑張ってほしい。